標語とスローガン

安全標語と安全スローガンの違い|戦時中の安全スローガンと共に

安全スローガンと安全標語は共に、作業現場などの「安全を喚起するフレーズ」のことを言いますが、スローガンと標語の違いはどこにあるのでしょう。この点について、改めて考えてみました。

また、文末で【戦時中の年間安全スローガン】をご紹介しています。これにより、本文の本意により近づくと思います。

安全スローガンと安全標語についての本質論

「安全」の部分については同一なので、スローガンと標語の違いということになります。一般的な解説ではスローガンは標語の一種であって特に宣伝的なものをいう、とありますが、企業の現場ではどうでしょう。以下、引用を見てみましょう。

平成16年度「安全スロ-ガン」応募作品・川崎市空調衛生工業会 安全委員会より引用
1. 無災害 こころに刻んで 安全作業
2. ひとりより みんなで築く 無災害

陸上貨物運送事業労働災害防止協会・全国陸上貨物運送事業労働災害防止大会・安全衛生標語入賞作品一覧より引用
・ハットした・ヒヤットしたその瞬間 教訓活かして 安全運転
・ハットした経験生かし危険予知 プロなら当然 安全運転

安全スローガンと安全標語の違い(所感)

上記の安全標語と安全スローガンを見て気付くことは、標語の方は5・7・5調で読みやすく親しみ易いのに比べ、スローガンの方は語調もあることながら短くストレートに訴えている観があります。また標語の方は一人一人に具体的に語りかけているのに対してスローガンの方は全員を統率するような感じないしは上から目線的なものを感じますがいかがでしょう。

自身の職場では、安全標語と呼ばれるものが事務室や休憩室などに掲示されているのに対して、安全スローガンは作業現場に掲示されています。安全標識と一緒に掲示されている例もありました。思えば危険な現場にあっては悠長な語りかけは禁物で、命令的なものの方が良いに決まっています。

安全スローガンの作成方法

従って、安全スローガンは現場にビシッと打ち込むフレーズであるべきで、安全標語は一息ついた従業員の心に語りかけるものということになるようです。このように考えると、安全標語やスローガンの募集に対する対応として、まずは安全標語を複数作り、その作品に一貫する心を安全スローガンにまとめるというのも一つのノウハウかと思います。こうすると、標語とスローガンが一度に出来上がります。

また、他人の秀逸な安全標語にまずたくさん目を通し、傾向の似通ったものを選択し、それらの作品に一貫する心を安全スローガンにするという、スローガンの作成法もあるのではないかと思います。

スローガンと標語の違い

実際のところ、安全標語と安全スローガンのそれぞれの実例を見ていると、標語と言いながらスローガンのようなもの、あるいはその逆のものがけっこう多いのに気づきます。非常に曖昧(あいまい)です。

そこで、冒頭「スローガンは標語の一種で特に宣伝的なもの」と述べているのに対して、ここでは、もっと厳密にスローガンと標語の違いについて述べて参ります。

標語とスローガンの本質的な違いは、「目標・目的」に対する取り組み(アプローチ)の違いと見ることができます。

企業、団体、学校、国家など、集団・組織は全て、なんらかの目的を遂行するために存在しています。そして、目的を遂げるために、短期・中期・長期の目標を設定して計画的に業務を遂行しています。

そして、業務遂行にあたり肝心な事は、組織・集団の一人一人が目標に対する共通の認識を持つ事にあります。

ここで登場するのがスローガンです。すなわち、皆が共通に認識しておくべき目標を明確にするために、ドーンと掲げる短文こそ、スローガンです。

かたや、集団・組織には、規則や規律・規範といったものが定められていて、組織の一人一人がこのルールを守ることによって、目標達成への業務が円滑に遂行されるように工夫されています。

ここで登場するのが標語です。守られるべき規則や規律、あるいは組織が理想目標として掲げる指針や理念、これらを語呂の良い簡潔な言葉で表した短文こそ、標語です。

つまり、スローガンは、目標完遂へのモチベーションや向上心を刺激して、皆を引っ張っていくためのもの。そして標語は、皆の心に働きかけルール遵守のためのもの。ということになります。

中災防の安全標語と安全スローガン

このような観点から、安全衛生を呼びかける中災防(中央労働災害防止協会)での、標語とスローガンの扱いを見てみましょう。

中災防では、安全をテーマにした「標語」と「スローガン」をそれぞれ、募集・公表しています。

標語については、「安全衛生標語の年間標語」及び「年末年始無災害運動標語」を、スローガンについては、全国安全週間(7月1日~7日)を前に、「全国安全週間のスローガン」を公表しています。

近年の安全標語と安全スローガンの一例は以下です。

安全衛生標語:歴代年間標語

  • 平成26年:安全意識は命綱 しっかり締めて 目指そうゼロ災
  • 平成27年:守ります!健康管理と安全確認 笑顔ひろがるゼロ災職場
  • 平成28年:健康と安全チェックが 作業の基本 しっかり守って ゼロ災職場

歴代年末年始無災害運動標語

  • 平成25年度:あせる心はOFFにして 安全ONで 年末年始
  • 平成26年度:安全の足並み揃えて 手を抜かず 年末年始もゼロ災害
  • 平成27年度:「たぶん」「だろう」に 危険がひそむ しっかり点検 年末年始

全国安全週間(7月1日~7日)歴代スローガン

  • 第86回(平成25年度):高めよう 一人ひとりの安全意識 みんなの力でゼロ災害
  • 第87回(平成26年度):みんなでつなぎ 高まる意識 達成しようゼロ災害
  • 第88回(平成27年度):危険見つけてみんなで改善 意識高めて安全職場

「ゼロ災」こそ、完遂したい目標です。標語においては、そのための「安全意識」などの規範が強調されます。それに対してスローガンでは、「ゼロ災害」を目標に一人ひとりの安全意識を喚起しています。

このように見ると、似たようにも見える「安全標語」と「安全スローガン」にも、訴えたい内容の観点に差異があることがわかると思います。

中災防
http://www.jisha.or.jp/index.html

戦時中の安全スローガンの強さと怖さ

労働災害防止活動の推進を図る「全国安全週間」は、 昭和3年に第1回が実施され、以来、一度の中断もなく継続して、平成28年で第89回目を迎えます。

ところが戦後の昭和20年から35年度(第18回~33回)の安全週間にあっては、スローガンによる呼びかけが行われませんでした。それは、戦時中の産業報国運動に対する批判から統制色を拭い去りたいという思いによるものです(昭和36年からは、科学的・組織的な安全管理の推進を呼びかけようというスローガンが復活)。

戦前、戦争色がまだ無い頃の安全スローガン(年間スローガン)は以下です。

  • 第1回(昭和3年度):一致協力して怪我や病気を追拂ひませう
  • 第2回(昭和4年度):健康は身の為 家の為 國の為
  • 第3回(昭和5年度):締めよ心 盡せよ設備

これが、戦争突入で以下のようになってきます。

  • 第15回(昭和17年度):誓って安全 貫け聖戦
  • 第16回(昭和18年度):必勝の生産 鉄壁の安全
  • 第17回(昭和19年度):決戦一路 安全生産

戦争の勝利を目的に、安全と生産性を喚起しています・・。軍部日本の国家権力による、滅亡への道が「安全スローガン」に反映されているのです。ここに、スローガンの強さと共に恐ろしさをも感じずにはいられません。

「安全スローガン」はどこまでも、国家と世界の平和の為、人類の繁栄と幸福のために、掲げ続けていかれることを切に願うばかりです。